母が教えてくれた「半分このみかん」
生きたお金の使い方
Facebookの創業者マーク・ザッカーバーグは結婚して初めての子どもができた時、妻と共に保有するFacebookの株99%を、教育や医療に寄付すると決めました。これは当時で5兆円という巨額に相当します。
彼は、誕生した長女にこんな手紙を書きました。
「我々の世代は世界の貧困と飢えをなくせるだろうか。正しく投資を行えば、あなたの一生のうちに答えはイエスになる」
娘一人に巨額のお金を残すのではなく、娘の世代のため、世界の未来のためにお金を使うと決めたのです。
「寄付の本当の目的は節税対策だ」という非難の声もありましたが、ぼくはこのニュースを聞いたとき、とても感動しました。生きたお金の使い方をしているな、と思ったのです。
難民キャンプで会った医学生
ザッカーバーグとは比べものになりませんが、ぼくも「寄付」というお金の使い方に関心をもっています。これまでも一部の本の印税や、テレビCMの出演料を、イラクの病気の子どものために寄付してきました。
イラクの難民キャンプで、病気を抱えている人たちの薬の名前をすべて覚えている若い女性に会いました。事情を聞くと、イラク北部のモスルで、医学部に通っていましたが、ヤジディ教徒であったため、過激派組織「イスラム国」に脅迫され、逃げてきたそうです。医師になる夢はあきらめかけていました。
ぼくは、クルド自治区の医学部への編入試験に合格したら、授業料を応援すると約束しました。彼女は難民キャンプで勉強を続け、見事、編入試験をパス。医学部を卒業して医師になりました。数年前のことです。
今まで、釜ヶ崎のドヤ街に住む二人の若者の大学の授業料も、出させてもらいました。自分が貧乏の中で、大学に行けた幸運のお返しをしたかったのです。
みかんを半分こ、分け合う
「99%自分のために生きても、1%はだれかのために生きる」
ぼくがそう思うようになったのは、育ての母の影響があったように思います。母は重い心臓病を抱え、父はその入院費用を工面するために夜中まで働いていました。
寡黙で怖い父と違って、母はおしゃべりで人の世話を焼くのが大好きでした。バスに乗ると隣の席の人に話しかけます。だれとでもすぐに仲良くなるのです。そして、カバンのなかにみかんがあったりすると、それを半分にして、「これ、あとで食べて」などと手渡すのです。残りの半分は、ぼくに。貧乏な長屋住まいでしたが、心の温かい人でした。
小学生くらいだったぼくは、これがとても恥ずかしかった。どうせあげるなら、みかん1個あげたらいいのに、と思っていました。
永六輔さんのラジオ番組で、「自分の住んでいた街を歩く」という企画の生放送に出演しました。杉並の妙法寺の門前町を歩いていると、「ミノルちゃん・・・」と、和菓子屋さんのおかみさんから声をかけられました。40年ほど時が経ち、母を知る人に会いました。
「お母さんにはお世話になりました。私が嫁に来てとても寂しい思いをしたり、辛い思いをしているとき、いつもお母さんが優しく声をかけてくれたんです。お母さんは偉大な人でした」
偉大な人。意外な言葉でした。小学校しか出ていない人でしたが、人として素敵な人でした。この人にもらってもらい、この人に育てられたことは、幸運だったと思います。自分は心臓病でつらい思いをしているのに、いつも笑顔を浮かべ、自分の持っているものをさりげなく分け合う。何でもないことのようですが、結構かっこいい母だったなあと、今では思っています。
オキシトシンがあふれる世界に
ぼくは、自分のなかにあるみかんを分け合う心を大切にするようになりました。みかん一個を自分ひとりで食べれば、それはただのみかんですが、分け合ったみかんはみかん以上の意味があると思うのです。
ぼくたちは、人が喜んでくれたとき、オキシトシンという絆ホルモンが作用して、幸せを感じることができます。だから99%は自分のために生きても、1%はだれかのために心を配りたい。そんな心を多くの人が持てば、ぼくたちの世界はもっと生きやすくなるのではないでしょうか。
JIM-NETとチョコ募金をよろしく
夏に始まった「Coffee for Peace!」に続き、今年も「チョコ募金」の季節がやってきます。皆さんご存じの通り、六花亭のチョコレートだから、とてもおいしい。仲の良いお友達に、頑張りすぎている人に、チョコ缶をプレゼント!なんて・・・どうでしょう。JIM-NETが支援しているイラクとシリアの子ども達が描いた可愛い絵が缶の蓋にほどこされた特別なチョコ募金。1缶550円、4缶1セットで2200円。チョコ募金で集まる温かな気持ちが現地の子ども達への支援につながります。
お友達と「半分このみかん」ならぬ「半分このチョコ缶」なんて洒落ています。